あとがき

 

  あれは数年前、某MMO内でギルドマスターが問いました。
「目玉焼きには醤油派? それともソース派?」
 何を隠そう、その時まで世間で醤油派とソース派が争いを繰り広げていることなど全く知らなかった私は、自信満々に答えました。
「ベーコン派です」
 おや、どうしたことでしょう。
 まるで時が止まってしまったかのように、沈黙が訪れました。
 しかしギルドの皆がクエッションマークを返してくるのに、そう時間はかかりませんでした。
 初めにベーコンが調味料ではないことを何人にも突っ込まれました。なるほど、確かにカテゴリー的には違うかもしれません。けれど大丈夫です、それくらいは想定の範囲内です。
 まず、私は皆にベーコンに調味料をつけるのかどうかを問いました。更にベーコンの味はそれほど弱いものかを問いました。
 そうです、ベーコンは強い。
 ベーコン自体にしっかりと味があるので余計な物は不要です。
 しかもその強さゆえに目玉焼きを優しく包み込み、導いてくれます。
 ここまで語ると、皆はしぶしぶベーコン派の存在を認め始めました。
 そしてベーコンの存在感に圧倒され、醤油とかソースとかが些細な問題に感じられたのでしょう。気が付けば争いは消えていました。
 ベーコン派の私ですら知りませんでしたが、ベーコンにはどうやら争いを治める力までようです。やはり、ベーコンは素晴らしい食べ物と言わざるをえません。
 さて、この話はもう終わったと思いきや、しばらくしてから一人に言われました。
「つまり、塩派ってこと?」
 一瞬頷きかけましたが、すぐに否定しました。なぜなら、ベーコンに求めているのは塩気だけではないのです。
 塩気だけでなく、あの濃厚な、一歩間違えばくどいとも言える脂を含んでいるからこそのベーコンです。それでこそ、ベーコンが調味料である証です。ベーコンは塩味にあらず、ベーコンはベーコン味です。
 しかし塩気がある以上、仮に塩をふった目玉焼きにベーコンを足したら、過度な塩分になってしまいます。
 さすがに、そこまで塩分いりません。

 最後になりましたが、今回の刊行にあたり喜んでくれた友人たち、お世話をしてくださった編集の長谷川さま、素敵なイラストを描いてくださった二宮先生、本を手に取ってくださった皆さま、そしてベーコンに感謝を込めて。

横田アサヒ