あとがき

 
 

 ずっと、変わりたいと思っていた。
 変わらずにやってくる日々の流れの中で自分を変えようとすることは、そう簡単なことじゃない。
 周りの目に耐えられるだけの強さと自分の信念、そして実行するためのパワー。それが必要不可欠なことは痛いくらいにわかっていた。
 そんなもの、今の私にはない。
 他人の評価は正直に言えば気になるし、こうしたいという思いはあってもちょっとしたことですぐ揺らぐ。毎日、現状維持で精いっぱい。
 自分のことは自分で一番よくわかっている。
 
 だからこそ、きっかけを探していた。
 自分の中にある思いをはっきりとした形にするための、前に進むための、きっかけ。
 心を揺さぶられるその一瞬があれば、もしかしたらすべてが覆るんじゃないかと、そんな気がしたんだ。
 

 人生で初めて人の目にふれる小説を書いたのは今からちょうど四年前。
 育児休暇の真っ最中でした。
 慣れない育児生活の中で何か気分転換になることがないかと思っていた時、たまたま見つけたのがエブリスタという投稿小説のサイトでした。
 画面を通して出会った作品の数々と、それらの中から様々な言葉の力をもらえたこと。
 初めは読者として画面の中の文字を追い続け、それは現実の日々の中でくじけそうになる時の励ましとなり、前に進むための力となりました。
 子どもの頃から読書が大好きで、思えばこれまでたくさんの場面で文字に助けられてきたことに気づいたのも、この頃でした。
 受け手側ではなく、発信する側になりたいと思うようになったのは、そうした自分のこれまでのことをふり返る中での自然の流れだったように思います。
 百人中の百人でなく、たった一人でいい。誰かの気持ちに寄り添える、心の力になれるものを形にしたい。小さくてもいいから、誰かの何かのきっかけになりたい。
 作品を書こうと決めたとき、私の中にはそうした思いがありました。
 書くことで、誰かの世界を変えるきっかけができたら、そこに自分の存在意義はあるんじゃないか、とも――
 
 
「――ねぇ、柴田。」は、そうした思いの先にある作品です。
 ずっと自分の中にあった、誰かのための作品でありたい、という思い。最初から最後まで、その思いを強く持ち続けていたのがこの作品です。
 作品としては、変わり者の柴田が中嶋と出会うことでどうなっていくのか、そして中嶋自身もどうなっていくのかということ、また、さまざまな糸の絡み合いの先に何があるのか、そのあたりを読みながら考えていただけると楽しめるのではないかなと思います。
 高校生という時期に自分がどんなことを思っていたのかは、もう昔のことすぎて忘れてしまいました。でも、今よりも経験が浅く知らなかったことが多かった分、きっともっと純粋にまっすぐだったんじゃないかなと、そんなことを思いながら書いていました。
 ぶつかることや痛みと向き合うことにも、きっと大人の私よりもずっとまっすぐだったんじゃないかと。
 
 書籍化にあたり、作品に込めた思いが多くの方に伝わるよう、ご指導いただきました長谷川様をはじめ編集者のみなさま、イラストを担当してくださったフライ様、出版関係の皆様には心より感謝申し上げます。また、エブリスタでずっと読者として支えてくださった皆様、今回の書籍化を通してつながることのできた読者様にも、感謝とともに、作品を通じて出会えたことを嬉しく思っております。本当にありがとうございました。
 

 

川瀬千紗